少林寺拳法が他の武道と大きく違うのは、自分から仕掛ける技がほとんどない、ということです。
もちろん突き蹴りは練習しますが、学ぶべきは『仕掛けられた時にどう受けて、流して、相手を制圧するか』という技なのです。
護身術になる
殆どの拳士が最初に習う技は『小手抜き』です。腕をつかまれた時に、どうかわして、抜いて、一撃をくらわせて相手の動きを止めるか、という技です。
腕をつかまれるときのメカニズムを、つかむ側、つかまれる側から一つ一つ教え、繰り返し学ぶことでするりと抜けるようになります。
私が最初に教わった先生は、過去に見知った子供が犯罪被害にあったこともあって、毎回とても真摯にこの技を教えてくださいました。
そのときに、相手を完全に制圧するよりまず、相手のスキ(虚)をついて抜いて、一瞬動きを止めてその間に逃げるだけの時間を稼ぐ、そして踵を返して走って逃げきるだけの体力を養い、身体の使い方を学ぶ、ということです。
今は小さな子供も思い切り走り回るという機会はなかなかありません。大人なら、より一層だと思います。
そういうことを頭で考え、つかまれた瞬間に体が反応するように訓練していく、というのが少林寺拳法の稽古です。
また、
・技を仕掛ける側を攻者(こうしゃ)
・仕掛けられる側を守者(しゅしゃ)
と呼びます。
そうして攻撃(腕をつかむとか、突き蹴りを仕掛ける)する側に、正しく攻撃をしてもらい、それを正しくかわし、制圧する、ということを学ぶのです。
自分を守るための護身術
少林寺拳法では、このように二人組んで稽古をするのが基本のスタイルです。『組手主体(くみてしゅたい)』といいます。
一人ではなく、誰かと組んで、より実践的に自分を守るための仕組みを学ぶのです。毎回の稽古でそれを繰り返し体にしみ込ませていきます。
しかし、相手を完全に制圧するわけではありません。
狙うのが急所なので、一瞬の激痛で動けなくなるとか、床に落ちることはありますが、けがをさせることや生命の危機に陥らせることが目的ではありません。そのために、体の仕組み(急所など)も段階に応じて学んでいきます。
ダイエットになる?
稽古が進むと、体幹が鍛えられていきます。日常生活ではなかなか使わない筋肉を使うようになり、最初は筋肉痛を伴うこともあります。
まず怪我をしないようストレッチから始め、徐々に体を慣らしますが、突き蹴りを繰り返していくのは有酸素運動的な動きなので、じんわり汗をかきます。
2時間程度の稽古では全身まんべんなく使う感じで程よく体がほぐれます。また、女性の間では『この動作はウエストから背中の引き締めに効果が高いよね!』というように言われていて、自宅でも日常的にその動作をエクササイズのように練習することもあります。
こうして正しくその技を繰り出せるようになると、筋肉を鍛えるのと同時にバランス感覚が磨かれ、それそのものが体幹の強化につながるのです。
また、少林寺では技を繰り出していく瞬間に声(気合)を出します。腹式呼吸を行ってより大きな声を出すよう心がけると、酸素の摂取量も上がっていくので、そういう意味でも脂肪燃焼の効果が大きいと感じています。
メンタル面の効果
『不撓不屈(ふとうふくつ)』という言葉があります。
今の世の中ではなかなか聞かれない言葉です。まして、その漢字を自分で覚えて書くことも殆どない言葉だと思います。しかし、少林寺拳法を学ぶ上で欠かせない言葉です。
教科書である読本にも
『いくら困っている人を助けたいと思っても、自分が弱ければその人を助けることはできません。強くなるためには体を鍛えるとともに、どんな困難にもひるまずくじけない、不撓不屈の精神を養う必要があります。「本当の強さ」とは、よりどころとなる自分をつくることです』
とあります。
日常ではあまり考えないことを、頭の隅っこにおいておく程度であっても、何かの瞬間に自分を律するには十分効果があるのではないでしょうか。
しかし、私としてはもう一つ大切なものがあると思っています。少林寺拳法は、学んでいる全員が仲間である、という意識です。
東日本大震災で
それが大きく発動したのが、東日本大震災でした。
被災地の道院の仲間のために、そして出身地である被災地の人々のために!と、それぞれの拳士が団結して、被災直後から活動していました。
例えば流通関係やIT関係の仕事をしているおじさん拳士たちはその能力と人脈をフル稼働して大規模に支援を行い、私たちのようなおばさん拳士たちはボランティアとして現地に赴く人たちのバックアップとして活動したのです。
これもまた『自他共楽(じたきょうらく)』=半ばは人の幸せを、半ばは自分の幸せを、という少林寺の理念が自然に発動したのだと思っています。
今でも岩手県陸前高田市を中心に、拳士たちが復興支援に参加しています。そこで全国の拳士が顔を合わせ、交流を深めたことで、より一層多くのつながりが生まれ、大きく輪が広がったのです。